ここには小さなお話とか、ちょっとした日記とかお知らせを置いてます。
現在、アットメイドにてシナリオ鋭意執筆中!
よろしくお願い申し上げます。
とある大学の片隅にある、堅牢な石造りの建物。
その重厚なゴシック建築こそ、才識兼備で妙齢の美女だがちょっと変わり者、来宮久留美(きのみやくるみ)教授の比較文化人類学教室である。
中は、図書館のような大教室と、いくつかの小教室や教授室がある。それら全てにこれでもかと、日本のサブカルチャーを形成するものどもが詰め込まれている。
そのいわゆるヲタクの巣窟の中心で、今日も来宮教授は、調べ物をしていた。いつもはネットだが、今回は蔵書から、何やら神社仏閣関連のものを読んでいた。
そばの大きな机では二人の男子学生がそれぞれ、ノートパソコンを開きつつも、漫画を読んだり、携帯ゲーム機で遊んだりしていた。
悪態を吐きながらゲーム上でモンスターを狩っている、茶髪で軽そうな方が下河。そして、黙々と集中して漫画を読んでいる、地味で暗い感じがする眼鏡の男が加美山だ。
来宮教授が本を閉じて、二人に話しかけた。
「君達。合体についてどう思う?」
光の速さで反応したのは、下河だった。
「あなたと合体したい! ふーじこちゃーん!」
どんな早業なのか、一気にパンツ一丁になって、来宮に飛び掛った。
来宮は何の躊躇もなく、持っていた本の角で、その無責任飛行物体を叩き落とした。
うめく下河。
「ぐふ……っ。ムネン。アトハ、タノンダ」
加美山が溜息を吐いた。
「頼まれてもな……。って言うか、下河。おまえの行為は犯罪だろ」
来宮も頷く。
「全くだ。下河君。これは断じてセクハラなどというちゃちなものじゃないぞ。まあ、今回はレポート四十枚で許してやろう。だが次は法の下で裁いてやるからな。異議は認めない」
床に半裸で転がる下河は泣きながら頷いていた。
来宮が右に垂らした長い前髪をかき上げ、加美山に向き直る。
「仕切り直そう。加美山君。君は合体について、何か思うところはあるか」
加美山は眼鏡の位置を直して、答える。
「そうですね……。僕はその発想の根源は原始宗教にあるかも知れないと思います」
来宮の眼が彼女のツーポイント眼鏡越しに輝く。
「ふむ。さすがに君は面白いな。続けてくれ」
加美山は了承して、続ける。
「実は僕も合体についてちょっと調べた事があるんです。まだ、全然まとまっていないので研究とまでは言えないんですけど……」
「ほう……。それで?」
「はい。それで、いわゆる原始宗教における神のよりしろとなる者、やや近代で例えると巫女のような存在が」
床から下河の声が聞こえる。
「み、巫女萌え……」
それを加美山と来宮は無視した。
「えーと、神の憑依するとされる存在がつまり、合体の大元になっているのかも知れないと思うわけです」
来宮はあごに手を当て、頷く。
「ふむ。それならより原始的な……例えば、強い動物を倒してその肉を食べることで、自分も強くなるというような発想が原点、とも考えられるな」
下河がまた、一言。
「上手に焼けましたぁー」
またも二人は見事にスルー。
加美山は来宮に答える。
「ええ、そうですね。いずれにせよ、自分より高度な何かと一体になることで特別な能力を得て、障害を克服したいという願望の現われが合体の根本なんじゃないかなと」
来宮は微笑んだ。
「うむ、なるほど。実はわたしもその説と同じ方向で調べていたんだ」
来宮は先ほど下河を殴った本を開いた。
加美山のそばに寄ってそのページを見せる。
「ほら、ここ。長岡京市にある乙訓寺(おとくにでら)という古刹、古い寺なんだが、ここに秘仏があってな」
「秘仏、ですか」
「うむ。公開されない仏像のことだが、ここの仏像は、その名も合体大師像という」
加美山は目を丸くした。
「な、なんですって?」
そのページを食い入るように見る加美山。
更にそれを微笑みながら見つめる来宮。
「どうだ。なかなかに面白い伝説が書いてあるだろう」
「ええ……。八幡大神が空海と共に仏像を彫った……
それもそれぞれがバラバラに頭と体を作って、合体させることを前提に……うーん」
来宮は眼鏡の位置を、人差し指と親指でレンズを挟むようにして直した。
「奈良時代末期にあった神仏同体思想から生み出された仏像だろう。同じようなものは他の古刹、例えば東大寺にもある」
加美山は本を来宮に返しながら言う。
「……仏教が伝来した時点で、神のよりしろが自分自身や巫女ではなく、偶像、つまり仏像に偏って行った……とも考えられますね」
来宮は本を受け取る。
「そうだな。ある意味、そこに転がる下河君の言動は正しい。つまり、それまでは合体される者が女、潜在的に男が合体を迫る者、という性差別的な部分があったわけだが、それが仏教により、肉体を離れて外の偶像に合体の対象が移った為、合体が内包する性差がなくなった……ま、それは自分でも穿ち過ぎかと思うが」
加美山はしかし、そんな冗談めかした来宮の言葉を真面目に受け止めた。
「そうだとすると、より近世の同性による合体の思想の源流はどこから来るんだ……?」
来宮はちょっと加美山の額を人差し指でつついた。
「ふ……。本当に真面目だな、君は」
加美山は顔を赤くした。
来宮は本を元の場所に戻そうと歩き出す。
「まあ、これもわたしの仮説だが、それは戦後のプレカリアートと関連があるんじゃないかと睨んでいるんだ」
加美山はつぶやく。
「プレカリアート……『蟹工船』ですか」
来宮がちょっと振り返って、微笑んだ。
「君もレポートを書くと良い。そのテーマでな。枚数は四十枚……じゃあ少ないか?」
加美山はその日初めて、ぎこちない笑顔を見せた。
その重厚なゴシック建築こそ、才識兼備で妙齢の美女だがちょっと変わり者、来宮久留美(きのみやくるみ)教授の比較文化人類学教室である。
中は、図書館のような大教室と、いくつかの小教室や教授室がある。それら全てにこれでもかと、日本のサブカルチャーを形成するものどもが詰め込まれている。
そのいわゆるヲタクの巣窟の中心で、今日も来宮教授は、調べ物をしていた。いつもはネットだが、今回は蔵書から、何やら神社仏閣関連のものを読んでいた。
そばの大きな机では二人の男子学生がそれぞれ、ノートパソコンを開きつつも、漫画を読んだり、携帯ゲーム機で遊んだりしていた。
悪態を吐きながらゲーム上でモンスターを狩っている、茶髪で軽そうな方が下河。そして、黙々と集中して漫画を読んでいる、地味で暗い感じがする眼鏡の男が加美山だ。
来宮教授が本を閉じて、二人に話しかけた。
「君達。合体についてどう思う?」
光の速さで反応したのは、下河だった。
「あなたと合体したい! ふーじこちゃーん!」
どんな早業なのか、一気にパンツ一丁になって、来宮に飛び掛った。
来宮は何の躊躇もなく、持っていた本の角で、その無責任飛行物体を叩き落とした。
うめく下河。
「ぐふ……っ。ムネン。アトハ、タノンダ」
加美山が溜息を吐いた。
「頼まれてもな……。って言うか、下河。おまえの行為は犯罪だろ」
来宮も頷く。
「全くだ。下河君。これは断じてセクハラなどというちゃちなものじゃないぞ。まあ、今回はレポート四十枚で許してやろう。だが次は法の下で裁いてやるからな。異議は認めない」
床に半裸で転がる下河は泣きながら頷いていた。
来宮が右に垂らした長い前髪をかき上げ、加美山に向き直る。
「仕切り直そう。加美山君。君は合体について、何か思うところはあるか」
加美山は眼鏡の位置を直して、答える。
「そうですね……。僕はその発想の根源は原始宗教にあるかも知れないと思います」
来宮の眼が彼女のツーポイント眼鏡越しに輝く。
「ふむ。さすがに君は面白いな。続けてくれ」
加美山は了承して、続ける。
「実は僕も合体についてちょっと調べた事があるんです。まだ、全然まとまっていないので研究とまでは言えないんですけど……」
「ほう……。それで?」
「はい。それで、いわゆる原始宗教における神のよりしろとなる者、やや近代で例えると巫女のような存在が」
床から下河の声が聞こえる。
「み、巫女萌え……」
それを加美山と来宮は無視した。
「えーと、神の憑依するとされる存在がつまり、合体の大元になっているのかも知れないと思うわけです」
来宮はあごに手を当て、頷く。
「ふむ。それならより原始的な……例えば、強い動物を倒してその肉を食べることで、自分も強くなるというような発想が原点、とも考えられるな」
下河がまた、一言。
「上手に焼けましたぁー」
またも二人は見事にスルー。
加美山は来宮に答える。
「ええ、そうですね。いずれにせよ、自分より高度な何かと一体になることで特別な能力を得て、障害を克服したいという願望の現われが合体の根本なんじゃないかなと」
来宮は微笑んだ。
「うむ、なるほど。実はわたしもその説と同じ方向で調べていたんだ」
来宮は先ほど下河を殴った本を開いた。
加美山のそばに寄ってそのページを見せる。
「ほら、ここ。長岡京市にある乙訓寺(おとくにでら)という古刹、古い寺なんだが、ここに秘仏があってな」
「秘仏、ですか」
「うむ。公開されない仏像のことだが、ここの仏像は、その名も合体大師像という」
加美山は目を丸くした。
「な、なんですって?」
そのページを食い入るように見る加美山。
更にそれを微笑みながら見つめる来宮。
「どうだ。なかなかに面白い伝説が書いてあるだろう」
「ええ……。八幡大神が空海と共に仏像を彫った……
それもそれぞれがバラバラに頭と体を作って、合体させることを前提に……うーん」
来宮は眼鏡の位置を、人差し指と親指でレンズを挟むようにして直した。
「奈良時代末期にあった神仏同体思想から生み出された仏像だろう。同じようなものは他の古刹、例えば東大寺にもある」
加美山は本を来宮に返しながら言う。
「……仏教が伝来した時点で、神のよりしろが自分自身や巫女ではなく、偶像、つまり仏像に偏って行った……とも考えられますね」
来宮は本を受け取る。
「そうだな。ある意味、そこに転がる下河君の言動は正しい。つまり、それまでは合体される者が女、潜在的に男が合体を迫る者、という性差別的な部分があったわけだが、それが仏教により、肉体を離れて外の偶像に合体の対象が移った為、合体が内包する性差がなくなった……ま、それは自分でも穿ち過ぎかと思うが」
加美山はしかし、そんな冗談めかした来宮の言葉を真面目に受け止めた。
「そうだとすると、より近世の同性による合体の思想の源流はどこから来るんだ……?」
来宮はちょっと加美山の額を人差し指でつついた。
「ふ……。本当に真面目だな、君は」
加美山は顔を赤くした。
来宮は本を元の場所に戻そうと歩き出す。
「まあ、これもわたしの仮説だが、それは戦後のプレカリアートと関連があるんじゃないかと睨んでいるんだ」
加美山はつぶやく。
「プレカリアート……『蟹工船』ですか」
来宮がちょっと振り返って、微笑んだ。
「君もレポートを書くと良い。そのテーマでな。枚数は四十枚……じゃあ少ないか?」
加美山はその日初めて、ぎこちない笑顔を見せた。

才色兼備のクール系女性教授、来宮久留美(きのみやくるみ)。
彼女の専門は比較文化人類学。
だが、それはかなり狭い意味で、であった。
来宮の研究室は、一見すると図書室のようだ。
その棚には比較文化論、心理学、宗教、歴史、文学、楽典など様々なジャンルの本が並ぶ。
だが、更に奥へ進むと様相が一変する。
ほとんど図書室なのは変わらないが、内容が変わるのだ。
ネットカフェ並みの量のマンガ、更に相当数のライトノベル、
果ては新旧のゲーム機類までが全て揃っている。
こうなると、ちょっとした博物館だ。
その日本文化の蓄積された世界の中心で埋もれるように、
来宮がノートパソコンで何か検索していた。
「ふーむ。フラグ……配列変数に格納しておくデータが
基本になっているのは当然として……」
突然、研究室の扉が勢いよく開いた。
茶髪でヘラヘラした、背の高い男子生徒が入って来る。
下河洋平(しもかわようへい)である。
「おはようございますー」
来宮はパソコン画面から顔を離さずに挨拶をした。
「ああ、下河(しもかわ)君か。おはよう」
「今日も美人っすねー」
「ふ、ほめても何も出ないぞ」
「いやいやー、もうその存在がここにあるだけで
俺、神様に感謝しますよー」
「ま、そう言われて、悪い気はしないがな」
「でっしょー? コーヒーいれますねー」
「ん。ありがとう」
そんな会話をしながらも、来宮はキーボードを叩く手を止めなかった。
しばらくすると、中肉中背で眼鏡を掛けた学生らしい男が研究室に入ってきた。
うつむき加減で、地味な服装。
不潔でこそないものの、暗い男だ。
来宮は手を止め、顔を上げた。
彼に声を掛ける。
「おはよう、加美山(かみやま)君」
そう呼ばれた生徒は来宮を一瞥し、頷いた。
「はい。おはようございます」
自分の席でノートパソコンを開いていた下河が呆れながら、加美山に言った。
「加美山ぁ。いい加減、自分から挨拶くらいしろよ」
「う……。ああ……」
加美山は下河と目を合わせることなくそれだけ答えて、自分の席に座る。
下河はため息を吐いた。
来宮が言う。
「下河君と加美山君には性格の違いがあるから、出来ないこともある。
無理強いをしても仕方がないぞ」
下河は犬が尻尾を振るように答えた。
「そっすねー!」
今度は加美山がため息を吐いた。
少しして、来宮が2人に質問をした。
「なぜ漫画やアニメのキャラはみんな美男美女ばかりなのか、解るか?」
下河が答える。
「そりゃあ……ブ男とブスしか出てこないものなんか、見たくないからっしょ」
「ふむ。読者としてはそうだな。加美山君はどう思う?」
加美山はうつむいたまま、答える。
「それは……願望、だからでしょう」
教授の目が光る。
「ほう。願望……な。詳しく述べてみてくれないか」
「はい」
加美山が顔を上げた。
来宮の目を見る。
「願望とはつまり、制作者サイドの欲望です。
作者がこんな可愛い女子、もしくは、こんなカッコイイ男子と付き合いたい、
自分の思い描く理想的な異性と巡り会いたい、という欲求が反映されているのではないかと」
来宮が大きく頷いた。
「うむ。その通りだ。そして本来は唯一の異性、であるべきなんだ。
もちろん、下河君の言う部分も商業的には大切なことだ。
だが、それが行き過ぎると現在のような萌えの大量生産、大量消費という状況を産み出すことになる」
下河は反論した。
「ですけど、それだけ色んなタイプの男子女子を揃えれば、売れやすいじゃないですか」
来宮は眼鏡を直す。
「ああ。だから、商業的には重要だと言っている。
だが、それは諸刃の剣なんだ。
そうやって、購買層のどこかに引っ掛かるような作りをすれば、
いずれキャラ性はただのモザイクの組み替えになり、捨てられる」
下河が食い下がる。
「でも、ツンデレや不思議ちゃんみたいに
テンプレートとして受け入れられるものもあるじゃないですか」
来宮は顔を横に振った。
「テンプレートはつまり、もう死後硬直なんだ。
そこには、もはや違う要素を足したり引いたり出来ない。
そうやると受け入れて貰えなくなるからな。
つまり、テンプレートに頼らざるを得ない作品になってしまうんだ。つまり――」
加美山が冷たく言い放つ。
「もうおまえは死んでいる……」
下河は大げさなリアクションを取った。
「あべし! って、それじゃあ、俺達の萌え文化はどうなっちまうんだ」
来宮がため息を吐く。
「さぁな……。ただ、もう限界に来ていることは確かだ。
この国では3ヶ月ごとに新しいアニメが数十本も放映され、
そのほとんどがさまざまなメディアの萌え系原作付きだ。
いわゆるギャルゲーやBLゲーと呼ばれるものも、
どんどん量産され使い捨てられる。こんな中で何を愛せと言うんだ?」
加美山は、その話にぼそぼそと答える。
「そうですね。ここに来て、アニメのDVDの売り上げが落ちているそうです。
もちろん、ネットの功罪もそれなりにあるでしょうが、
やはり我々ヲタがその作品を愛する前に次が来る状態、
つまり過剰供給と高速消費に辟易していると見るのが妥当なのかもしれませんね」
下河はムッとする。
「いや、ここ最近だって愛せるキャラはたくさんいたぜ」
加美山はチラリと下河を見る。
「テンプレ以外で?」
下河は言葉に詰まった。
教授が微笑む。
「日本人は江戸時代の昔からテンプレートが好きだからな。
古い言葉だが、決まり切った定型の挨拶などを紋切り型と言うだろう。
あれは元来、職人が着物に模様を染め付ける際、大量生産のために作り出した型のことなんだ。
型があれば熟練した職人でなくとも模様が染め付けられるというわけだ」
生徒の2人は同じように感心する。だが、その後の反応は別々だった。
「ってことはテンプレは日本人の魂っすね! んじゃ、なんでもテンプレでオッケーっすね!」
「……元々日本人は楽するために、自分の首を絞める民族なんだ……」
来宮教授は、げんなりとして頭を抱えた。
「君の仕事……君に出来る仕事、ね。もう無いんだよねぇ……。困ったねぇ」
そう上司が言った。もっともだ。
俺は中途入社一年目の後半、仕事がなくなった。
それは結局、何をやらせても出来ないからだ。
長いニート生活の間に、両親が死んで……その家を売った金を食い潰して……。
仕方なく就職してみたものの、俺は口下手で、営業なんか出来ない。
かと言ってろくにビジネスソフトも使えない。
だって、ゲームなんかと違い、見たこともないビジネス用語が並んでるんだぜ?
さらに次々と新機能が出て来て覚えられないんだ。
出来るのは、コピーと資料のまとめ。
他には上司の出張なんかの手配。
もちろん、電話なんか出来ない。全てネット予約だ。
上司は続ける。
「君は真面目が取り柄かとも思ったけど、かなりいいかげんだよねぇ」
ため息。
「資料ひとつ作らせても雑だし、遅刻も多いよねぇ」
もう一つ、ため息。
「それでさぁ……今、すごい不況ってのは、いくら君でも知ってるよねぇ?」
俺は上司の顔を見て、一言だけつぶやいた。
「解りました」
次の日は雨だった。
今日も遅刻だ。
俺は出社すると、玄関で折りたたみ傘をたたんだ。
そして、あるものを取り出して、装着した。
エレベータに乗って降りる。
真っ直ぐに上司のもとへ行った。
上司は俺の顔を見るなり、不思議そうな声を上げた。
「なんだ、君。ふざけてるのか」
そう、俺は“2009”という形をかたどった眼鏡を掛けて、そこにいたんだ。
「もちろん、ふざけてるんですよ」
俺は冷静に応える。
「じゃあ、さよなら」
次の瞬間。
俺は上司を思いきり殴った。
今まで生きてきた中で一番、力を込めて。
鈍い音がした。
拳が彼の頬骨に当たって、痛かった。
彼は椅子から机にぶち当たり、さらに転げ落ちた。
それを見ていたほとんどの社員が呆気に取られる。
そんな中、正義漢ぶった営業のヤツが立ち上がった。
「なにすんだ、おまえ!?」
そいつは俺を取り押さえようと、走ってくる。
俺は無意識に、傘で真っ直ぐ、そいつの胸を突いた。
自分の反応にびっくりした。
これが防衛本能ってヤツなのか?
また、鈍い音がした。
ヤツは息が出来なくなって、後ろに倒れ込む。
俺はそれを見て、すぐに逃げた。
会社のビルを走って飛び出し、道を彷徨った。
どのくらい、うろついたのか。
気付くと雨も上がっていた。
やがて、俺は公園のベンチに疲れて倒れ込んだ。
「はぁっ、はぁっ……」
太陽が眩しい。
俺は……なんてことを……なんて、言わない。
解っててやったことだ。
でも、ただ捕まるなんて面白くない。
だから逃げた。
どうせ、家族も居ないんだ。
恋人だって2次元にしか居ない。
「俺は……自由だ」
未来なんて元々ない。
この国、この世界にさえ、未来なんかない。
俺は急にわくわくしてきた。
なんでも出来るんだ。
今の俺には、なんだって。
耳に突然、子供のはしゃぐ声が響く。
甲高くて耳障りだ。
その方向を見ると、泥で遊ぶ子供。
それを困り顔で見つめる母親達が目に入った。
やっちまうか。
そう思った。
でも。
俺より先に、声を荒げてその親子に突っかかる、小汚いオヤジが来た。
何を言っているのか、まるで解らない。
ただ、何か口汚く罵っているようだ。
俺は立ち上がると、そのオッサンのほうへ向かった。
そして、オッサンのそばに着いた途端、殴った。
倒れたところを蹴った。
肋骨がたくさん折れたような感触が足にあった。
でも、俺は何も感じない。
オッサンは動かなくなった。
俺はそのまま、また逃げた。
また、ふらふらと街を彷徨う。
「腹、減ったな……」
俺はファーストフードの店先で、列に並んだ。
昼時ってこともあって、店員達はフル回転だ。
俺のすぐ後ろに、学生らしいカップルが来た。
高校生だろうか。
彼氏はジーンズを腰で履き、彼女は短いスカート。
ずっと抱き合うようにしている。
彼氏が大声で、メニューを指差す。
「お姉さん、スマイルひとつ! ほら、スマイル!」
それに彼女が下品な笑いを上げた。
そこへ彼氏のケータイが鳴った。
「ああ? なんだそれ。制服? なんに使うんだよ? ああ? ぎゃはは、ヘンタイじゃね?」
俺の心はすーっと冷えた。
俺は自分の注文したセットを受け取ると、店を出た。
やがて、さっきのカップルが出て来る。
まだ、男は電話してる。
俺は真っ直ぐ2人に向かって行った。
男が俺に反応するより先に、殴りつける。
ケータイが道路を滑った。
女が恐怖で固まっている。
もちろん、女も殴った。
男がそれを見て、起き上がりそうだったので、頭を蹴った。
さらに蹴った。蹴った。蹴った。ボールのように。
男はぐったりした。
女はしくしくと泣いている。
俺は逃げた。
ビルの谷間で、ファーストフードを喰らって、腹を満たした。
旨い。いつも喰ってたはずなのに。
こんなに旨い飯はいつ以来だろう。
俺はぺろりと平らげると、ゴミをその辺に放った。
「今頃、俺のアパート、警察来てるかな」
俺は親が死んだ後、その持ち家を売り払い、金に換えた。
思い出なんかクズだ。価値なんて無い。
その財産を使って出来るだけ長い間、遊んで暮らす為に、俺は安いアパートを借りた。
「ちょっと帰ってみるのもいいか」
何人か殴って、だいぶ気もおさまった。
捕まるなら、それでいい。
それだけのことをしたって自覚はある。
だが、罪の意識はない。
怖くもない。
ただ、この世界でそういうことをすれば、逮捕されるというのが当たり前だ、と思っただけだ。
俺はそんな平坦な心の地平線を見つめたまま、アパートに足を向けた。
そう上司が言った。もっともだ。
俺は中途入社一年目の後半、仕事がなくなった。
それは結局、何をやらせても出来ないからだ。
長いニート生活の間に、両親が死んで……その家を売った金を食い潰して……。
仕方なく就職してみたものの、俺は口下手で、営業なんか出来ない。
かと言ってろくにビジネスソフトも使えない。
だって、ゲームなんかと違い、見たこともないビジネス用語が並んでるんだぜ?
さらに次々と新機能が出て来て覚えられないんだ。
出来るのは、コピーと資料のまとめ。
他には上司の出張なんかの手配。
もちろん、電話なんか出来ない。全てネット予約だ。
上司は続ける。
「君は真面目が取り柄かとも思ったけど、かなりいいかげんだよねぇ」
ため息。
「資料ひとつ作らせても雑だし、遅刻も多いよねぇ」
もう一つ、ため息。
「それでさぁ……今、すごい不況ってのは、いくら君でも知ってるよねぇ?」
俺は上司の顔を見て、一言だけつぶやいた。
「解りました」
次の日は雨だった。
今日も遅刻だ。
俺は出社すると、玄関で折りたたみ傘をたたんだ。
そして、あるものを取り出して、装着した。
エレベータに乗って降りる。
真っ直ぐに上司のもとへ行った。
上司は俺の顔を見るなり、不思議そうな声を上げた。
「なんだ、君。ふざけてるのか」
そう、俺は“2009”という形をかたどった眼鏡を掛けて、そこにいたんだ。
「もちろん、ふざけてるんですよ」
俺は冷静に応える。
「じゃあ、さよなら」
次の瞬間。
俺は上司を思いきり殴った。
今まで生きてきた中で一番、力を込めて。
鈍い音がした。
拳が彼の頬骨に当たって、痛かった。
彼は椅子から机にぶち当たり、さらに転げ落ちた。
それを見ていたほとんどの社員が呆気に取られる。
そんな中、正義漢ぶった営業のヤツが立ち上がった。
「なにすんだ、おまえ!?」
そいつは俺を取り押さえようと、走ってくる。
俺は無意識に、傘で真っ直ぐ、そいつの胸を突いた。
自分の反応にびっくりした。
これが防衛本能ってヤツなのか?
また、鈍い音がした。
ヤツは息が出来なくなって、後ろに倒れ込む。
俺はそれを見て、すぐに逃げた。
会社のビルを走って飛び出し、道を彷徨った。
どのくらい、うろついたのか。
気付くと雨も上がっていた。
やがて、俺は公園のベンチに疲れて倒れ込んだ。
「はぁっ、はぁっ……」
太陽が眩しい。
俺は……なんてことを……なんて、言わない。
解っててやったことだ。
でも、ただ捕まるなんて面白くない。
だから逃げた。
どうせ、家族も居ないんだ。
恋人だって2次元にしか居ない。
「俺は……自由だ」
未来なんて元々ない。
この国、この世界にさえ、未来なんかない。
俺は急にわくわくしてきた。
なんでも出来るんだ。
今の俺には、なんだって。
耳に突然、子供のはしゃぐ声が響く。
甲高くて耳障りだ。
その方向を見ると、泥で遊ぶ子供。
それを困り顔で見つめる母親達が目に入った。
やっちまうか。
そう思った。
でも。
俺より先に、声を荒げてその親子に突っかかる、小汚いオヤジが来た。
何を言っているのか、まるで解らない。
ただ、何か口汚く罵っているようだ。
俺は立ち上がると、そのオッサンのほうへ向かった。
そして、オッサンのそばに着いた途端、殴った。
倒れたところを蹴った。
肋骨がたくさん折れたような感触が足にあった。
でも、俺は何も感じない。
オッサンは動かなくなった。
俺はそのまま、また逃げた。
また、ふらふらと街を彷徨う。
「腹、減ったな……」
俺はファーストフードの店先で、列に並んだ。
昼時ってこともあって、店員達はフル回転だ。
俺のすぐ後ろに、学生らしいカップルが来た。
高校生だろうか。
彼氏はジーンズを腰で履き、彼女は短いスカート。
ずっと抱き合うようにしている。
彼氏が大声で、メニューを指差す。
「お姉さん、スマイルひとつ! ほら、スマイル!」
それに彼女が下品な笑いを上げた。
そこへ彼氏のケータイが鳴った。
「ああ? なんだそれ。制服? なんに使うんだよ? ああ? ぎゃはは、ヘンタイじゃね?」
俺の心はすーっと冷えた。
俺は自分の注文したセットを受け取ると、店を出た。
やがて、さっきのカップルが出て来る。
まだ、男は電話してる。
俺は真っ直ぐ2人に向かって行った。
男が俺に反応するより先に、殴りつける。
ケータイが道路を滑った。
女が恐怖で固まっている。
もちろん、女も殴った。
男がそれを見て、起き上がりそうだったので、頭を蹴った。
さらに蹴った。蹴った。蹴った。ボールのように。
男はぐったりした。
女はしくしくと泣いている。
俺は逃げた。
ビルの谷間で、ファーストフードを喰らって、腹を満たした。
旨い。いつも喰ってたはずなのに。
こんなに旨い飯はいつ以来だろう。
俺はぺろりと平らげると、ゴミをその辺に放った。
「今頃、俺のアパート、警察来てるかな」
俺は親が死んだ後、その持ち家を売り払い、金に換えた。
思い出なんかクズだ。価値なんて無い。
その財産を使って出来るだけ長い間、遊んで暮らす為に、俺は安いアパートを借りた。
「ちょっと帰ってみるのもいいか」
何人か殴って、だいぶ気もおさまった。
捕まるなら、それでいい。
それだけのことをしたって自覚はある。
だが、罪の意識はない。
怖くもない。
ただ、この世界でそういうことをすれば、逮捕されるというのが当たり前だ、と思っただけだ。
俺はそんな平坦な心の地平線を見つめたまま、アパートに足を向けた。
とある高校。
だらだらとした昼休み。女子3人が話していた。
その内の1人がケータイをいじりながら他の2人に話しかける。
「最近さー、テレビで未来に化ける新素材とか言ってるCMで、
モコモコしたラクダみたいな動物が出てるじゃん? かわいくね?」
眼鏡で黒髪の子が答える。
「わたしはテレビをあまり見ないので知りませんが」
もうひとりの身体の小さい子も答えた。
「あー! あたし、知ってるー。
えーと名前、なんだっけなぁ。……カピバラ?」
眼鏡の子が冷静に反論した。
「それは地上最大の齧歯類(げっしるい)で
ネズミの仲間です。全然、モコモコしていません」
ケータイの子が得意気に言う。
「あ、カポエラだよ! ぜってー!」
眼鏡の子は、まるで機械のように答えた。
「違うと思います。
それはポルトガルに支配されたブラジル人奴隷が看守の目をごまかすため
ダンスのフリをして鍛錬したと言う格闘技です。
正確に近い発音はカポエイラ。 もはや、動物ですらありません」
ケータイの子は聞き流すようにした。
「あー、わかったわかった。違げーんだな。
なーんか、そんな感じだったんだけどなぁ……」
眼鏡の子が、しばし考えて言った。
「……アルパカじゃないんですか」
他の2人が大きく反応した。
「あー! それそれ!」
――
というのを思いついたミラバケッソ。
だらだらとした昼休み。女子3人が話していた。
その内の1人がケータイをいじりながら他の2人に話しかける。
「最近さー、テレビで未来に化ける新素材とか言ってるCMで、
モコモコしたラクダみたいな動物が出てるじゃん? かわいくね?」
眼鏡で黒髪の子が答える。
「わたしはテレビをあまり見ないので知りませんが」
もうひとりの身体の小さい子も答えた。
「あー! あたし、知ってるー。
えーと名前、なんだっけなぁ。……カピバラ?」
眼鏡の子が冷静に反論した。
「それは地上最大の齧歯類(げっしるい)で
ネズミの仲間です。全然、モコモコしていません」
ケータイの子が得意気に言う。
「あ、カポエラだよ! ぜってー!」
眼鏡の子は、まるで機械のように答えた。
「違うと思います。
それはポルトガルに支配されたブラジル人奴隷が看守の目をごまかすため
ダンスのフリをして鍛錬したと言う格闘技です。
正確に近い発音はカポエイラ。 もはや、動物ですらありません」
ケータイの子は聞き流すようにした。
「あー、わかったわかった。違げーんだな。
なーんか、そんな感じだったんだけどなぁ……」
眼鏡の子が、しばし考えて言った。
「……アルパカじゃないんですか」
他の2人が大きく反応した。
「あー! それそれ!」
――
というのを思いついたミラバケッソ。
メイドマスター体験版について、
お買いあげのほど、誠にありがとうございます。
さて、その体験版ですが正常に起動していますでしょうか。
もし、CDを入れて、表示されるexeを
直にWクリックしておられましたら、申し訳ありません。
それではエラーが出てしまいます。
正しい起動方法は、以下の通りです。
『CDの内容を全ていったん、HDDへコピーしてから
exeをWクリックして下さい』
リードミーを付けなかったため、混乱を招き、
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
今後とも、見捨てないでよろしく願いします。
お買いあげのほど、誠にありがとうございます。
さて、その体験版ですが正常に起動していますでしょうか。
もし、CDを入れて、表示されるexeを
直にWクリックしておられましたら、申し訳ありません。
それではエラーが出てしまいます。
正しい起動方法は、以下の通りです。
『CDの内容を全ていったん、HDDへコピーしてから
exeをWクリックして下さい』
リードミーを付けなかったため、混乱を招き、
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
今後とも、見捨てないでよろしく願いします。

